前編では、組織強化、採用のミスマッチを防ぐ、考え方として、活躍する人材の評価するための3つの軸を紹介し、活躍する人材はこれら3つの条件で合格ラインを満たしていると考察しました。
活躍する人材の評価軸3つ
・”価値観(カルチャー)”のフィット
・”ビジネス基礎素養”のフィット
・”業務スキル”のフィット
後編では、この3つの軸を使って、よくある採用のミスマッチのパターンと、組織レベルの診断方法について考察してみます。
採用のミスマッチする場合には、いくつかパターンがあり、活躍する人材の評価軸を使えば、ある程度言語化できると思っています。
その中でも特に、起こりがちなパターンを2つ紹介します。
価値観(カルチャー)のフィットは合格ラインだが、ビジネス基礎素養と業務スキルでミスマッチしているパターン。
自社のミッションやバリューに対しては強い共感を抱いているので、意欲をもって、仕事には望んでくれる。ただ、現場で活躍するには、能力が不足しているので、戦力にならず次第に現場メンバーからは不満があがってくる。その空気が本人にも伝わり、やがて居心地が悪くなり、退職へつながるケース。
結果をすぐに求めず、ある程度育成の体制もしっかりしていて、ゆとりがある現場であれば、うまくいくケースもある。しかし、たいてい現場は忙しいので、うまくいかなくなることが多い。
ここ数年、特にスタートアップ界隈では、カルチャーフィットが大事だという考え方が浸透してきているが、カルチャーフィットのみを重視した採用の典型的な失敗例でもある。
現場でもとめられる役割や能力が言語化されていなかったり、採用に関係する人がそのニュアンスを理解していないと起こりがち。
価値観などの、想いはとても大事だが、想いだけでは現実を変えることは難しい。
想いが強い候補者ほど、盲目的に入社したいと思ってしまう。採用側も、その熱量に押されて見誤りやすい。
ただこのパターンはほとんどの場合、お互い不幸になるので、採用側でちゃんと能力のフィルターもかけてあげることがお互いのため。
ビジネス基礎素養、業務スキルは合格ラインだが、価値観がフィットしていないパターン。
ビジネス基礎素養や業務スキルは申し分なく、むしろエース級の人材。しかしながら、自社のミッションなど、価値観への共感がとても薄い。
このような人材をとってしまうことのリスクは、既存のメンバーと打ち解けられなかったり、バリューなどの行動規範を守らなかったりする。その結果、著しくチームの和を乱してしまったり、不必要な対立や争いが増え、組織の士気がさがる。
また、能力が高く、価値観フィットしていない候補者は、報酬目当てであったり、成功している企業であるからや、労働環境が良いからといった表面的な理由を重視して入社を決める傾向にある。
もちろん、能力に見合った報酬や環境は与えるべきだが、表面的な理由を重視しすぎる人材を採用してしまうのは組織にとってあまりよくない。なぜなら、会社の業績が悪くなったりと、苦しい状態で、一目散に離職するのもこういった人材だからだ。
彼ら彼女らは、他社でも雇ってもらえる引く手数多な存在なので、今いる自分の組織が勝ち馬から負け犬になったと判断したら、すぐに見切りをつけることが合理的な判断になってしまうのです。
経営者の視点に立てば、業績はいい時もあれば悪いときも必ずあるので、悪い時こそ能力の高い人材には頑張ってもらいたいと思うはず。
苦しいときにも人が踏ん張れる理由は、報酬でなく、必ず実現したい未来があるといった想い。つまり、価値観が最後に残る。
これらが、価値観(カルチャー)のフィットがかけている人材は、いくら能力が高くても採用しない。”カルチャーフィットが重要だ”と、叫ばれている理由でもある。
なお、若い世代では、報酬やモノを重視する価値観は、年々弱くなってきており、むしろ、なぜその事業なのか?社会にどんな影響を与えるか?といったミッションを重視する人が増えている。この傾向は、ますます加速するはずなので、企業としては、自社の価値観(カルチャー)を磨いて、唯一無二のものにしていく必要がある。
ここまで、価値観(カルチャー)・ビジネス基礎素養・業務スキルの3つの軸で、総合評価すれば一人の人材が自社にどれだけマッチしているか判定できるという話をしてきました。
実は、この判定を今、組織に所属している既存のメンバーにも対象にして一人一人言語化した上で、その分布をみてみると、組織の総合的なポテンシャルを判定することができると考えています。
図も用いてで簡単に例を説明してみましょう。
価値観・ビジネス基礎素養・業務スキルの3つで総合評価したマッチ度を1人1人明らかにした上で、部長、リーダー、メンバーといった形で、階級(クラス)別に、分布させてみたものです。
※分布図は、部署ごとやチームごとに分けたりするのもありかと思います。
例では、全体的に、マッチ度Cの人材が目立ちます。この状態では、組織のポテンシャルは低く、おそらくあちこちで問題が起こっており、事業も思うように成長してなさそう。
最悪の場合、組織崩壊なども起こりそうで、小手先の施策ではおそらく組織はよくならないので、マッチ度の高い人材の割合を増やすしかないと理解できそうです。
マッチ度の高い人材の割合を増やす手段は大きく2つしかないと思います。
手段①マッチ度の高い新しい人材を”採用”により輸血する。
手段②既存の社員を”育成”して、マッチ度を引き上げる。
即効性があるのは採用により外部から輸血することです。ただ、そもそも過去の採用のミスマッチが起こりやすい仕組みになっているからと考えるべきなので、まずは、採用のミスマッチがこれ以上、起こらないようにすべきでしょう。
散々話してきましたが、採用のミスマッチが起こるのは、価値観・ビジネス基礎素養・業務スキルの3つの軸が言語化されておらず、自社で活躍できる人材が正しく判定できていないことに起因します。
なので、例えば、3つの軸それぞれの具体的な要件を言語化したペルソナシートをつくってみるなどのアクションがまず考えられます。
ペルソナは、別にスプレッドシートでも何で作成しても良いと思います。重要なのは、採用にかかわるすべての人がいつでも参照できる状態にすることです。共通認識をつくるとともに、適宜アップデートできるようにしましょう。
いきなり完璧なものはできないので、現場のフィードバックや候補者との面接を繰り返す中で常に更新しつづけるのが良さそうです。
また、良い人材のペルソナだけでなく、悪い人材のペルソナも作ると良いかもしれません。そうすることで、既存社員も含めて、長くいてもらっては困る人材。長くいてもらわない人材の定義も明らかになります。
人が増えれば増えるほど、固定費はあがるので、採用ばかりに頼るのは危険です。
そのため、育成により、既存の社員のマッチ度を引き上げる打ち手も考えるべきです。
とはいえ、育成には時間がかかるのに加えて、例のように全体的にマッチ度が低い場合は、全員を一気に手を付けるのは現実的ではありません。
つまり、育成の優先順位をつける必要があります。
育成の優先度の付け方にはいろいろな考え方があると思いますが、例図の組織状況だった場合は、下記のように考えると合理的になりそうです。
・部長クラスなど、クラスが高い順に優先する。
・価値観(カルチャー)のフィットが著しく低い人は、無理して育成しない。
クラスが高い順に優先するのは、同じマッチ度Aの人でも、クラスがより高い人のほうが組織全体に及ぼす影響力が高くなからです。
例えば、ビジネス基礎素養が弱い部長クラスの下についたリーダークラスの人材は、成長速度が弱くなりやすいはず。上の階層の能力レベルは下に波及しやすいので、まずは上からが定石になるという考え方です。
※これは採用の優先順位においても同じように考えられそうです。
また、価値観がフィットしていない人を無理して育成しないのは、価値観を変えるのは難しいからです。それよりも、価値観がフィットしているが、業務スキルが弱いメンバーや、ビジネス基礎素養が弱い人を優先した方がまだ見込みがありそうです。
なお、価値観がフィットしておらず、著しくチームの和を乱している人に対しては、育成ではなく、行動規範やバリューでの評価軸を用いて待遇をあげない。場合によっては下げるなどして、評価しないことを明確に伝えてあげることが重要だと思います。
これによって変わってくれる人も一定はいるはずです。それでも、考えを変えられない人は、残念ではありますが、離職されても病む終えないと割り切るのもときには、重要だと思います。